皆様こんにちは、こんばんは。
私はわりと西洋文化が好きで、食事も西洋寄りなのですが、ビジネスシーンで出てくる横文字の意味がいつまでたっても覚えられないあたりは日本人なんだなあと思ったりします。
さて本日は、
『フォアグラの焼き方、火入れ方法』
について解説していこうと思います。
今まで私はどちらかというと感覚的にフォアグラの火入れを行ってきましたが、今回は火入れの最適解を探るべく、温度や手順をいろいろ試してみました。
その中で私がこれが一番美味しく焼けるぜと思った火入れ方法を紹介させていただきます。
ただもちろんこれが絶対的に正解でほかの方法はありえない!とかいうお話ではありませんので、あくまでも『現時点での私の中で』の最適解です。
なのでこれを参考にしていただいて、自分なりの最善の方法を導き出してもらえればと思います。
なお今回は、
『1~2人前分のポーションカットされた鴨のフォアグラをソテーで仕上げる』
という条件のもと火入れしていきます。
ブロックの状態でのロティやコンフィ、テリーヌなどとは最善の火入れ方法は変わりますのでご注意ください。
ちなみに以前、冷凍状態からフォアグラの火入れをする方法という記事も書いておりますので、まだご覧になっていない方はぜひそちらの記事も合わせてご覧ください。↓
では始めていきましょう。
目次
フォアグラの性質
まずフォアグラの火入れを行うためにフォアグラの性質から考えていきましょう。
フォアグラというのは強制的に肥大化させたアヒルや鴨の肝臓の事で、今回は一般的に手に入りやすい鴨のフォアグラを使用していきます。
フォアグラは全体の約50%が脂肪分で、水分が35~40%ほどという他の肉類とは全く異なった成分比で構成されています。
なので普通のお肉のように適当に転がしながら焼いてしまうと、脂肪分と水分が全て流れ出してしまってパッサパサでカッスカスなフォアグラになってしまうわけです。
このようないい加減なフォアグラを皆様も一度は口にしたことがあるのではないでしょうか。
そんなカッスカスなフォアグラにしないために、まずは理想の状態をイメージして、それを目指して最善の火入れを考えていきます。
焼き上がりの理想の状態を考える
今回はフォアグラの理想の焼き上がりを、
『外側はしっかり焼き切ってしっかりめの食感と香ばしい風味をつける。内側は火を入れすぎないように脂と水分をできるだけ留めた状態。』
という風に決め、それに向かって火入れをしていきます。
人によっては脂をしっかり抜いて焼き切った方が好きだという方もいるかもしれませんが、今回はとりあえずこんな感じで。
ではこの状態にするにはどうすればいいのか?
いよいよ火入れを行っていきます。
脂と水分の流出を防ぐためには
火入れを行っていく、といいましたがその前にまずはフォアグラの脂が溶けて外に流れ出る温度を探します。
水分に関しては、基本的にはフォアグラの場合ほとんどが脂肪分なので水分は蒸発しにくく、ちょっとしたことでは乾燥したりはしません。
なので脂を留めることができれば概ね良い状態で仕上げることができると思います。
というわけでフォアグラの温度が何度まで上がったら脂が溶けて外に出て行ってしまうのか?
という点から確認していきましょう。
フォアグラの脂の融解温度を確認する
この確認にはウォーターバスを使用します。
フォアグラの下処理を行ったことがある方ならわかると思うのですが、フォアグラの脂は人間の体温でもゆっくりと溶けてきます。
なのでとりあえずは人間の体温より10℃落として25℃ぐらいからじわじわと上げていき、フォアグラの脂が溶けだしてくる温度を探っていきます。
30℃ぐらいまではフォアグラの状態に変化はありませんでしたが、32℃あたりからほんのわずかに脂が溶けだしてきました。
個体差はあると思いますがおそらく32℃前後がフォアグラの脂の融解点だと思われます。
35℃ぐらいで目に見えて脂が出てきます。
写真ではわかりませんが37~40℃ぐらいまで上げていくとより脂が出る速度が上がっていきますね。
というわけで結果はこちら。
なのでソテーなどの高温での火入れを行う前に32℃まではあらかじめ上げた状態で置いておくことが可能です。
この項目ではこの点だけ覚えておいてください。
フォアグラは低温調理できるのか
上記の結果からわかるようにフォアグラは非常にデリケートで、わずかな温度変化によって状態が変わってしまいます。
なのでデリケートな素材なら低温調理やろ!という安直な考えで低温で最後まで火入れすればどうなるのか、という実験もしてみました。
網に乗せた状態で60℃のオーブンで火入れしました。
もったいぶらずに結果をお伝えすると、脂がクッソ溶け出してくるのでおすすめできません。
テリーヌのように冷製で食べる料理はある程度脂を抜いたほうが美味しいので低めの温度で時間をかけて火入れしますが、温製料理、特に今回のソテーを前提としたポーションカットには不向きですね。
ちょっと見にくいですが5分ほどでかなりの量の脂が溶け出てしまいました。
この実験からわかるようにフォアグラは温度が上がると見る見るうちに脂が溶けていってしまいます。
なのでなるべく短時間で火入れを済ませた方がいいと考えられますね。
というわけで結果はこちら。
フォアグラは脂の融解温度を超えると見る見るうちに脂が溶けて抜け出てしまうので、短時間の火入れの方が向いていると考えられます。
さてクッソ長い前置きはここまで。
この実験をもとに私流の火入れの手順を解説していきます。
フォアグラの火入れ方法
①ポーションカットしたフォアグラに重量の1%の塩を振る。
フォアグラはソテーの直前に塩を振っても脂と一緒に流れ出てしまうのであらかじめ下味を入れておく。
②32℃のウォーターバスで温度を上げておく。
レストランでの営業の際は注文がかかるまでこのウォーターバスに入れた状態で置いておく。
ウォーターバスがない場合は32℃以下の場所でシャンブレ(室温に戻すこと)すると良い。
③煙が出る直前ぐらいまで熱したフライパンでフォアグラを両面焼いていく。
ちなみにこの時、基本的にサラダ油などは必要ないが小麦粉をつけて焼きたい場合はすこしだけフライパンに油をなじませておいた方が綺麗に焼ける。
④フォアグラから出てくる脂は逐一キッチンペーパーでふき取る。
高温で加熱されて酸化した脂はフォアグラの香りの妨げとなるため、この工程は忘れないように注意する。
⑤両面焼き色がついたら引き上げて、厚みにもよるが大体30秒ほど休ませて中心まで熱を伝える。
フォアグラは非常に熱が伝わりやすいため、厚みがない限りは長時間休ませる必要はない。
⑥休ませた後、温度を計ってみると芯温は約43℃。
フォアグラの中心温度については後述するが、今回は大体55℃あたりを狙う。
⑦最後の仕上げの火入れは、サラマンドルか高温のオーブンで短時間で行う。
今回はサラマンドルで両面5秒ずつぐらい温めた。
⑧本来はこのまま皿に盛りつけて、提供までの時間を利用してフォアグラを休ませて中心まで温度をあげるのだが、今回は芯温を計測するため1分ほど休ませた。
芯温は約54℃。
⑨あとは結晶塩を振って完成。
下味で1%の塩を振ってあるがフォアグラは塩味を感じづらいので仕上げの塩はあった方が美味しいと思う。
外側はしっかりめに焼き付けて食感を持たせ、内側は柔らかくとろけるような食感に。
これがソテーしたフォアグラの醍醐味ですね。
フォアグラの中心温度について
さて最後にフォアグラの中心温度について解説していきます。
人によっては今回の中心温度に対してちょっと高くね…?と思ったかもしれません。
私自身もつい最近までフォアグラの中心温度は50~52℃ぐらいを狙っていました。
しかし最近は55~60℃ぐらいまで上げるようにしています。
フォアグラは普通の肉と違ってたんぱく質の占める割合が少ないため、温度を高くしてもガチガチに硬くなったりはしません。
そして今回のように脂の融解温度を超えてからの火入れ時間が短い場合、多少温度を上げても極端に脂が抜けることもありませんでした。
なのでここからは好みだとは思うのですが、私は多少温度が高めの方がフォアグラがプルプルとした心地の良い食感になると感じ、高めの温度で仕上げるようにしています。
ちなみに検証で一般的にタブーとされている68℃まで中心温度を上げて仕上げてみました。
やはり断面から脂がにじみ出てきています。
食感も火が入ったレバー独特のモサッっとした感じが多少あります。
やはりたんぱく質の割合が少ないとはいえ、完全に凝固するまで加熱してしまうと脂と水分の抜けやすさに大きな影響を与えるようですね。
以上の検証結果もあり、やはり個人的には60℃ぐらいまでが許容範囲かなと思っています。
合わせるソースや食材によっても最適な温度は変わると思いますのでそのあたりはお好みで調節してみてください。
というわけでまとめると、
火入れが浅いと柔らかくとろけるような食感に、しっかりめに入れるとプルプルとした食感が楽しめます。
こんな感じですね。
おわりに
クッソ長くなってしまいました。すみません。
果たしてここまで読んでいただいた方はいるのでしょうか。
繰り返し言い訳のような感じにはなりますが、これはあくまでも現時点での私の中での最適解であって、世界一美味しく焼く方法とか大それたことは言えません。
ただある程度数字や検証結果をお見せすることで、料理人それぞれが思う理想の火入れに向けて考えやすくなるかなと思いこの記事を作らせていただきました。
この記事が皆様の参考に少しでもなれば幸いです。
それでは本日もお読みいただきありがとうございました。
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